大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和62年(ワ)13142号 判決 1989年7月27日

原告

松永満智子

被告

内田修司

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一二四六万円及びこれに対する昭和六二年一〇月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和五八年八月九日午後八時三五分ころ

(二) 場所 東京都板橋区蓮沼一九番八号先道路(以下「本件道路」という。)上

(三) 態様 被告が普通乗用自動車(以下「被告車」という。)を運転して前記場所を走行中、被告車の右フエンダーミラーが原告に衝突し、原告が転倒した。

2  責任原因

被告は、被告車を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、本件事故により原告が被つた人的損害を賠償する責任がある。

3  原告の損害

(一) 原告は、本件事故のために、左第八肋骨骨折、右足部打撲証、左膝部・肩甲部打撲症、頚椎捻挫、腰椎捻挫等の傷害を受け、この結果、左肋骨部疼痛、右足部腫脹、頑固な腰痛及び右拇趾根部の神経痛症候等の後遺障害が残つた。なお、原告は自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)上、自動車損害賠償保障法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下「後遺障害別等級表」という。)第一四級該当の認定を受けている。

(二) 右受傷に伴う損害の数額は次のとおりである。

(1) 治療費 金五一万六四八〇円

ア 板橋中央総合病院 金三八万六五八〇円

イ 大窪整骨院 金九万四五〇〇円

ウ 新井整形外科医院 金一万〇六三〇円

エ 貴友会病院 金二万四七七〇円

(2) 通院交通費 金二万三七二〇円

(3) 休業損害 金七八九万七六一五円

(4) 後遺障害による逸失利益 金一一四九万六五一四円

(5) 傷害慰藉料 金一五〇万円

(6) 後遺障害慰藉料 金二四〇万円

(7) 弁護士費用 金二〇〇万円

4  損害の填補 金三〇四万二五七〇円

原告は、本件事故による損害につき、被告から合計金三〇四万二五七〇円の弁済を受けたので、これを前記損害から控除する。

よつて、原告は、被告に対し、自賠法三条に基づき、前記3(二)の損害合計金二五八三万四三二九円から4の損害填補額金三〇四万二五七〇円を控除した残金二二七九万一七五九円のうち金一二四六万円及びこれに対する昭和六二年一〇月四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3(一)の事実について、原告が、自賠責保険上、後遺障害別等級表第一四級該当の認定を受けていることは認め、その余は知らない。

同(二)の事実について、(1)のうち、アは三七万四三五〇円の限度で、イは全額を認め、その余は否認する。(2)、(3)、(5)、(7)は知らない。(4)、(6)は否認する。

3  同4の真実は認める。

三  抗弁(過失相殺)

原告は、付近に横断歩道があるのに横断歩道外の本件事故現場で横断し、かつ、本件事故発生の直前に被告車の進行方向の車道上に出てきた。そして、原告の右過失も本件事故の一因というべきであるから、原告の損害を算定するに当たつては、右の点を斟酌して減額されるべきである。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因3(原告の損害)について

1  原本の存在及び成立に争いのない甲第六号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第七号証、成立に争いのない甲第八、第九号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故のために、左第八肋骨骨折、右足部打撲症、左膝部・肩甲部打撲症、頚椎捻挫、腰椎捻挫等の傷害を受け、この結果、頑固な腰痛及び右拇趾根部の神経痛症候等の後遺障害が残つたことが認められる。そして、原告の右後遺障害が、自賠責保険上、後遺障害別等級表第一四級該当の認定を受けていることは当事者間に争いがない。

2(一)  治療費 金四六万八八五〇円

治療費のうち、板橋中央総合病院の金三七万四三五〇円及び大窪整骨院の金九万四五〇〇円は当事者間に争いがない。ところで、前記甲第六号証によれば、原告の本件事故による受傷は昭和五九年七月二三日に症状が固定したものと認められるが、その余の治療費はいずれも症状固定後のものである。

そして、右治療と前記受傷との因果関係を認めるに足りる証拠はないから、その費用を本件事故による損害と認めることはできない。

(二)  通院交通費 認められない。

通院交通費についてはこれを認めるに足りる証拠がない。

(三)  休業損害 金一五八万二六五〇円

前記甲第六、第九号証、成立に争いのない甲第一八号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故当時、美容師として稼働し、昭和五七年度において金一二一万円の所得を得るとともに、主婦として家事に従事していたものであるところ、前記受傷のため本件事故後約六か月間はこれらの労働に全く従事することができず、その後約六か月間は通常の二分の一程度しか労働できなかつたものと認められる。そこで、右休業損害を賃金センサス昭和五八年第一巻第一表、産業計、企業規模計、女子労働者、学歴計の全年齢平均の年収額金二一一万二〇〇〇円を基礎に算定すると、その額は金一五八万二六五〇円となる。なお、原告の夫の経営するアイ電工業株式会社からの給与は、原告の確定申告書にその記載がないうえ、稼働の内容も明確ではないから、右給与を逸失利益を算定する際の収入とすることは相当でない。

(四)  後遺障害による逸失利益 金二八万七三二四円

前認定の原告の後遺障害の内容及び程度に原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は、本件事故による後遺障害のため、症状固定後三年間を通じ五パーセント程度の労働能力を喪失したものと認めるのが相当である。そこで前記年収額を基礎として右労働能力喪失割合を乗じ、同額からライプニツツ方式により中間利息を控除して、右期間の逸失利益の本件事故当時の現価を求めると、その金額は金二八万七三二四円となる。

(五)  慰藉料 金一四〇万円

前認定の原告の受傷の内容、治療経過、後遺障害の内容、程度等諸般の事情を総合すれば、原告に対する慰藉料としては金一四〇万円をもつて相当と認める。

三  過失相殺について

原本の存在及び成立に争いのない甲第六号証、原告が平成元年二月二八日撮影した本件事件現場付近の写真であることに争いのない甲第三一号証の一、二及び被告本人尋問の結果によれば、原告は、知人を送つて本件道路を都営地下鉄蓮沼駅出入り口側から蓮沼町バス停側に一旦横断し、今度は左右の交通の安全を確認しないまま蓮沼バス停側から都営地下鉄蓮沼駅側に後ろ向きに引き返し、中央線を蓮沼駅出入り口側に数十センチメートル越えた付近で振り返ろうとしたところ、本件道路を赤羽方面から中仙道方面に進行してきた被告車の右フエンダーミラーに衝突して転倒したこと、被告は、被告車を運転して本件道路を赤羽方面から中仙道方面に向けて約三〇キロメートル毎時の速度で進行し、約二三メートル前方に原告が左側から右側に横断するのを発見し、約二〇キロメートル毎時の速度に減速してそのまま進行したところ、約五メートル前方に一旦横断した原告がバス停に停車していたバスの陰から後ろ向きに出てくるのを発見し、直ちに急制動したが間に合わず前記のとおり原告と衝突したこと、以上の事実を認めることができる。右認定の事実によれば、原告にも、本件道路を横断するに当たつて、左右の交通の安全を確認して横断すべき注意義務を怠り、安全を確認しないまま後ろ向きに横断した過失があり、右過失も本件事故の一因というべきである。したがつて、原告の右過失を斟酌し、原告の前記損害額から三割を減額するのを相当と認める。そうすると過失相殺後の原告の損害額は金二六一万七一七六円となる。

四  損害の填補 金三〇四万二五七〇円

請求原因4の事実は当事者間に争いがない。

五  結論

以上の事実によれば、原告の本件事故による損害賠償額の残額が存しないことは明らかであり、したがつて、弁護士費用の請求も理由がないことが明らかである。よつて、本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡本岳)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例